我以外皆我師の真意とは?宮本武蔵ではなく吉川英治が遺した理由
吉川英治のオリジナルとして知られるこの箴言ですが、思想の系譜を遡ると、東洋古典の精緻な源流に行き当たります。その決定的なルーツが、儒教の根本経典である『論語』述而(じゅつじ)篇に登場する孔子の言葉です。
『論語』には次のような一節が残されています。
「子曰く、三人行けば、必ず我が師あり。其の善なる者を択びてこれに従い、其の不善なる者にしてこれを改む」
この「三人行必有我師(さんにん行けば必ずわが師あり)」とは、3人で行動すれば、その中には必ず自分の手本となる人物がいるという意味です。優れた行いをする人を見ればその長所を学び、悪しき行いをする人を見れば「自分も同じ過ちを犯していないか」と反省材料(反面教師)にする。つまり、善悪両面を自らの成長の糧に変える知恵を説いたものです。
吉川英治はこの『論語』の教えをさらに押し広げました。「三人」という限定を解き放ち、出会うすべての人、敵対する者、理不尽なトラブル、さらには激動の昭和を揺るがした社会情勢に至るまで、文字通り森羅万象を自分の内面を磨く砥石(といし)に見立てました。古典の知恵を自らの波乱の人生体験と融合させ、より実存的で強靭な人生哲学へと昇華させた点に、この言葉の類まれな強度があります。
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