静寂の森に現れる白馬の謎:東山魁夷が名作に込めた祈りの正体
1972年という年は、東山魁夷にとって激動の時期だった。皇居宮殿の壁画制作や唐招提寺御影堂の障壁画という国家的な大事業に向き合い、身心ともに極限まで削り落とされていた画家を、さらなる悲報が襲う。無二の理解者であり、互いの芸術を深く敬愛し合っていたノーベル文学賞作家・川端康成の急逝である。
肉親を次々と亡くし、魂の友までも失った魁夷の胸中に広がったのは、底知れぬ虚無と孤独だった。その暗闇の中で、ふと画家の心裏に浮かび上がったのが、青緑の森をさまよう一頭の白い馬だった。魁夷自身、後に「白馬は私自身の心の祈りの姿であった」と述懐している。画面に描かれた白馬は、単なる写生対象としての動物ではない。傷つき、疲れ果てた自己の魂を純化し、生への希望を繋ぎ止めるための象徴的な祈りそのものだったのだ。
この年、画家は憑かれたように白馬の連作を手がけ、わずか1年ほどの間に18点にも及ぶ珠玉の作品群を生み落とした。それは日本の絵画史においても類を見ない、濃密な魂の対話の記録である。
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