失われゆく北海道の木々、名作ロケ地が直面する知られざる現実
今日、私たちが目にする北海道の絵画のような丘陵風景は、かつて当たり前の農村に過ぎなかった。その景観に美を見出し、日本中の視線を集める契機を作ったのが、風景写真・ネイチャーフォトの巨匠・前田真三である。1970年代から美瑛の丘に通い詰めた前田は、うねる大地と農作物のパッチワーク、そして要所に佇む孤立木が織りなす幾何学的な美しさを写真集や個展を通じて世に知らしめた。
前田の写真がきっかけとなり、高度経済成長期の広告カルチャーと結びついた木々が次々と名声を得ていく。1970年代の日産スカイラインのCMロケ地として一躍全国区となった「ケンとメリーの木」は、背の高いポプラが空へと伸びる凛々しい姿で、今なおドライブ客を引き寄せる。また、1976年にタバコのパッケージに採用された「セブンスターの木」は、丘の頂に立つカシワの枝振りが夕暮れの光を浴びて浮かび上がる姿で知られ、昭和から令和に至るまで観光の金字塔であり続けている。
だが、これらの木々は観光のために植えられたモニュメントではない。本来は、吹き付ける強風から農作物を守る防風林や、農地と農地の境界を示す目印として農家が植樹した実用的な存在だった。この「農の営み」と「写真芸術」の幸福な偶然が、世界屈指のランドスケープを生み出したのである。
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