時代をしなやかに生き抜く「凛とした美学」――樋口可南子が体現する表現者の真諦と現在地
女優としての真骨頂は、やはり映画やドラマの深い暗がりの中で発揮される。渡辺謙と共演した『明日の記憶』で見せた、若年性アルツハイマーを患う夫を健気に、しかし時に揺らぎながら支える妻の演技は、観客の感情を揺さぶり、劇場の空気を支配した。
また、是枝裕和監督の作品群をはじめとする映画制作の現場において、彼女の存在は「日常の深み」を表現するために欠かせないピースとなってきた。派手な感情の爆発ではなく、視線の泳ぎや微細な指先の動き、沈黙の間(ま)によって感情の機微を表現する技法。その静かなる演技力は、観る者の心に長く残る波紋を描き出す。
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