熊駆除「かわいそう」の裏側|麻酔や放獣が無理な現実と猟友会の苦悩
抗議の声の中で最も多く寄せられるのが、「なぜ銃で撃ち殺さずに麻酔銃で眠らせないのか」という疑問です。しかし、野生動物の管理・医療に携わる専門家は、市街地での麻酔銃使用は人命救助の観点から極めてリスクが高いと口を揃えます。
現場で麻酔銃が使えない理由は、主に以下の技術的・薬理的ハードルに起因しています。
第一に、効果発現までのタイムラグです。映画のように麻酔銃を撃ち込まれた瞬間に倒れ込むことは現実にはあり得ません。筋肉注射された薬剤が血流に乗って脳に達するまでには、通常10分から15分以上の時間を要します。しかも、銃撃による激痛と恐怖でクマのアドレナリンが一気に分泌されると、薬剤の効果が大幅に遅延し、狂乱状態となって周囲の人間を無差別に襲撃し始めます。
第二に、投与量の正確な算出が現場では不可能な点です。麻酔薬は対象の体重に合わせてミリグラム単位で調合しなければなりません。量が少なければ効かずに暴れるだけであり、多すぎれば呼吸不全でその場で死亡します。興奮して走り回るクマの目測だけで適正量を瞬時に判断することは、熟練の獣医師であっても至難の業です。
さらに、麻酔銃は火薬銃に比べて弾速が著しく遅く、有効射程距離はわずか10〜20メートル程度に限られます。厚い毛皮や強靭な筋肉、硬い骨に弾道が阻まれ、針が筋肉深部に届かない失敗例も頻発します。周囲に逃げ遅れた住民がいる市街地において、不確定要素だらけの麻酔銃を撃つことは、住民をさらなる危険に晒す自殺行為に他なりません。
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