水木しげるの壮絶な戦争体験|左腕喪失と玉砕命令から生還した奇跡の軌跡
水木氏が体験した戦争の理不尽さを象徴する最大の事件が、ニューブリテン島東部のバイエン(ズンゲン)方面で下されたズンゲン支隊の玉砕命令です。水木氏が配属されていた成瀬挺身隊(通称・ズンゲン支隊)は、圧倒的な兵力と近代兵器を誇る敵軍に包囲され、連隊本部から「全員突撃して玉砕せよ」との命令を受けました。
敵の猛攻により部隊はほぼ全滅しましたが、伝令に出ていた水木氏を含むごく一部の兵士だけが、夜のジャングルを彷徨い、海を何時間も泳ぎ渡って本隊へと奇跡的な帰還を果たしました。しかし、本隊の上層部から投げかけられたのはねぎらいの言葉ではなく、「なぜ生きて帰ってきたのか。死んだ戦友に申し訳ないとは思わないのか」という冷酷な叱責と、再び死地へ赴くよう命じる理不尽な対応でした。
この凄惨な体験の真相を赤裸々に描いたのが、水木文学の金字塔である『総員玉砕せよ!』です。作中の登場人物の90%以上が実在の戦友をモデルにしており、司令部の体面や観念的な精神論のために無駄死にさせられていく名もなき兵士たちの苦悩と無念が、凄まじい筆致で告発されています。
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