ロシア皇太子襲撃の衝撃から135年——「大津事件」が問い続ける司法独立の価値と国家の存亡
伊藤博文や山縣有朋、松方正義といった政府首脳の至上命令は一つ、「津田三蔵を何が何でも死刑にすること」であった。ロシア側の怒りを鎮めるためには加害者の命をもって償うほかないと考えた政府は、皇室に対する罪を定めた旧刑法第116条(大逆罪)を適用し、死刑判決を下すよう裁判所に強烈な圧力をかけた。
しかし、ここに重大な法理上の壁が立ちはだかった。旧刑法第116条はあくまで「日本の皇室」に対する罪を定めたものであり、外国の皇族に対する襲撃に適用することは明確な条文の拡大解釈・罪罰法定主義の侵害にあたったからである。外国皇族への危害に対する規定がない以上、通常の殺人未遂罪(旧刑法第292条)を適用するほかない。だが、当時の通常殺人未遂罪の最高刑は無期徒刑(無期懲役)であり、死刑に処することは不可能だった。政府の「政治的生存」と、裁判所の「法の厳格な運用」が真っ向から激突した。
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