百人一首が描く恋の乱れ模様「しのぶずり」の謎と現代に息づく伝統美
信夫摺りの名を不朽のものにしたのが、『小倉百人一首』の第14番に選ばれた源融(みなもとのとおる)による以下の名歌です。
「みちのくの 信夫もぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに」
【現代語訳】
「陸奥の信夫もぢずりの乱れ模様のように、私の心は乱れ始めてしまいました。いったい誰のせいでこのように乱れてしまったのでしょう。私自身のせいではなく、すべてあなたを想う恋心のせいなのです」
この歌において、布に刻まれた複雑な「乱れ模様(もぢずり)」は、恋によって激しくかき乱される情熱の比喩として用いられています。また「信夫(しのぶ)」には「忍ぶ恋」のニュアンスが重なり、「乱れそめにし」の「そめ」には「初め(始まり)」と「染め(染色)」の掛詞が巧妙に組み込まれています。
『伊勢物語』の冒頭の段(初冠)にも、若き主人公が信夫摺りの狩衣(かりぎぬ)の裾を切って歌を書き付け、思いを寄せる姉妹に贈る場面が登場します。このように、信夫摺りは平安貴族にとって「燃え盛る恋心の象徴」として深く愛好されました。
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