冬彦さんの呪縛を超えて:怪優・佐野史郎が放つ静かな狂気と現在
佐野の演技の根底にあるのは、1970年代のアングラ演劇が育んだ濃厚な肉体性とアナーキズムだ。唐十郎が主宰する「劇団状況劇場」の門を叩き、紅テントの熱気の中で鍛え上げられた身体感覚は、今も彼の立ち姿の随所に息づいている。
その特異な才能が日本映画のスクリーンで決定的な開花を見せたのが、林海象監督の長編デビュー作『夢みるように眠りたい』(1986年)だった。全編モノクローム、無声映画の手法を大胆に取り入れたこのカルト的傑作で、私立探偵・魚塚草を演じた佐野は、昭和初期のレトロモダンな空気感と完璧に融和。単なるテレビタレントにとどまらない、映画的記憶を一身に背負う俳優としての地歩を固めた瞬間であった。
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