東山魁夷はなぜ白馬を描いた?名作『緑響く』の祈りと全18作の真実

東山魁夷はなぜ白馬を描いた?名作『緑響く』の祈りと全18作の真実の疑問点について、分かりやすい解説を基に徹底解説します。

連作の中でも最高傑作と評されるのが、1972年に描かれた『緑響く』です。針葉樹の深い緑が静寂な水鏡に完璧なシンメトリーを描き、その中央を右から左へと白い馬が優雅に歩みを進める構図は、一度見たら忘れられない幻想美を誇ります。

この作品のロケーションのモデルとなったのが、長野県茅野市・八ヶ岳の山麓に位置する御射鹿池(みしゃかいけ)です。神秘的な佇まいから天然の湖沼と思われがちですが、実は1933(昭和8)年に冷たい湧水を太陽光で温めて農業用水として使うために作られた「人工の温水ため池」という意外な歴史を持ちます。

御射鹿池が絵画のように美しい鏡面を作り出すのには科学的な理由があります。強い酸性の水質であるため水草や魚が生息できず、水が極めて透明に保たれるうえ、湖底の酸性土壌により朽ちた木々が腐敗せずに沈んでいるため、光の乱反射を防いで美しいエメラルドグリーンを反射するのです。東山魁夷はこの静まり返った水辺に立ち、現実の風景をただ模写するのではなく、心の中の白馬を解き放ちました。同時期に描かれた『白馬の森』とともに、信州の自然が巨匠のインスピレーションを極限まで研ぎ澄ました傑作といえます。

鈴木 陽菜

鈴木 陽菜

テックライター兼ウェブディレクター

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