ノンフィクション作家・堀川惠子の軌跡|圧倒的取材力と代表作の真相
広島出身の堀川氏にとって、原爆と戦争の記憶はライフワークとも呼べる重大な主題です。しかし、彼女が描く世界は、紋切り型の反戦平和アピールとは一線を画しています。その象徴が、第47回大宅壮一ノンフィクション賞に輝いた『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』です。
広島平和記念公園の一角にある原爆供養塔には、引き取り手のない約7万柱もの遺骨が納められています。この塔を守り、遺族の元へ遺骨を帰すために半生を捧げた女性・佐伯敏子さんの足跡を追った同作で、堀川氏は納骨名簿を自ら照合し、遺族の現住所を割り出すという気の遠くなるような追跡取材を行いました。国家や行政が「戦後処理の完了」として放置してきた個人の名前と尊厳を、彼女は70年以上の時を経て再び白日の下に晒したのです。戦後80年を迎えた節目においても、文春オンラインの特別企画などで中高生に向け「あの日、広島で一体何が起きていたのか」を語り続けるなど、記憶の風化に抗う姿勢は揺らぎません。
さらに、その視座を軍事機構と補給の側面から深化させたのが『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』です。巨大な軍港であった広島・宇品に拠点を置いた「陸軍船舶司令部(暁部隊)」の司令官たちの日誌や機密文書を綿密に解読。近代戦争における兵站の無謀さを浮き彫りにすると同時に、原爆投下直後に廃墟と化した市内へ真っ先に救護隊を送り込んだ軍人たちの葛藤を描き切りました。大義名分やイデオロギーに偏ることなく、極限状況下に置かれた人間の実情を冷徹かつ慈しみをもって記録する手腕は、他の追随を許しません。
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