荒川氾濫で東京はどうなる?江東5区水没危機と命を守る避難の真実
荒川氾濫の議論において、最も過酷な被害想定が突きつけられているのが墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区の「江東5区」です。各自治体が共同で公表した江東5区浸水想定の真相は、首都圏に住む人々に強い衝撃を与えました。5区の総人口約260万人のうち、実に9割にあたる約250万人の居住エリアが水没すると予測されているためです。
この地域特有の地理的脆弱性を知るうえで欠かせないのが、過去のカスリーン台風被害と教訓です。1947年(昭和22年)、カスリーン台風により利根川の堤防が決壊した際、濁流は埼玉から南下して荒川沿岸や葛飾・江戸川一帯に流れ込み、広大な地域が泥海と化しました。当時の死者・行方不明者は全国で1,930名にのぼり、東京のゼロメートル地帯の治水は文字通り国家の最優先課題となりました。
戦後の地盤沈下対策や高規格堤防(スーパー堤防)の整備が進められたものの、地形そのものを根本から持ち上げることはできません。江東5区の大半は満潮時の海面よりも低い土地であり、荒川と江戸川に挟まれた袋小路のような構造をしています。そのため、ひとたび堤防が決壊すると、水が引くまで最大2週間以上、長い場所では数週間にわたって水が引きません。水が引かないということは、救助ヘリやボートが駆けつけることも難しく、孤立した被災者がそのまま命の危機にさらされることを意味します。
こうした構造的危機から導き出されたのが、広域避難タイムラインの経緯です。2018年に江東5区がまとめた広域避難計画では、「ここにいては水没する」「浸水区域外へ避難すること」という踏み込んだ警告が打ち出されました。行政が「区内に留まるな、区外へ逃げろ」と明言した異例の発表は、現地の治水能力の限界と、時間的猶予のない避難の過酷さを物語っています。