食卓のお肉ができるまで徹底追跡|肥育から流通の裏側と命の真実
かつて閉鎖的と見なされがちだった食肉処理場ですが、現在の現場は最先端のバイオ・食品工場そのものです。国内の主要処理場では、国際基準であるHACCP(危害要因分析重要管理点)が完全義務化されており、チリ一つ落ちていないクリーンルームが広がっています。
処理場における具体的な仕事内容は、専門分化された高度な技能の結晶です。家畜が搬入されると、まず名古屋市食肉衛生検査所などの公的機関に所属する獣医師が、歩行状態や眼球、呼吸器系に異常がないかを「生体検査」でチェックします。この段階で病気が疑われた個体は入場すら認められません。
処理室内では、家畜に無用な恐怖や苦痛を与えないよう、電気ショックや保定装置を用いた迅速なスタニング(失神)が行われます。この間、わずか数秒。瞬時に意識を奪った上で放血を完了させます。これは動物福祉(アニマルウェルフェア)の観点はもちろん、血抜きを完璧に行うことで肉の臭みを防ぎ、鮮度を保つための必須工程です。
続く解体ラインでは、最新鋭のロボットカッターによる腹壁切開と、熟練職人による手作業の内臓摘出が組み合わされています。内臓を傷つけて消化管内容物が肉に付着すると大腸菌汚染のリスクが生じるため、ナイフの刃先を1ミリ単位でコントロールする極めて繊細な技術が発揮されます。摘出された内臓と枝肉は、獣医師によってリンパ節の腫れ、寄生虫の有無、病変組織がないか一頭ごとに解剖検査を受けます。病変部が見つかればその部位は廃棄、全身に及ぶ病気であれば丸ごと焼却処分されるという、一切の妥協を許さない二重三重のセーフティネットが機能しています。
枝肉となった肉は、全国食肉学校などで専門教育を受けた食肉技術者が待つ食肉加工センターへと移送され、骨を取り除く「脱骨(だっこつ)」と無駄な脂肪を取り除く「整形」が行われます。太い牛の大腿骨から肉を削ぎ落とす工程は重労働でありながら、ミリ単位の肉のロスも許されない職人技の世界です。