三越の包装紙にやなせたかし?「華ひらく」英字ロゴ誕生秘話と真相

三越の包装紙にやなせたかし?「華ひらく」英字ロゴ誕生秘話と真相についての真相をお届けします。

戦後の混乱から復興へと向かう1950年(昭和25年)、三越は「新しい時代にふさわしい、明るくモダンな包装紙を」という方針を打ち出し、当時すでに洋画壇で確固たる地位を築いていた猪熊弦一郎氏へ図案の制作を依頼しました。

猪熊氏は千葉県の犬吠埼を散策中、海岸に転がる波に洗われた小石の丸みや自然の造形美に強いインスピレーションを受け、あの独特のフォルムをスケッチしたと伝えられています。使用された赤色は「スイスの赤(スカーレット)」と呼ばれ、戦後の日本人に希望と生命力を感じさせる特別な色彩でした。これが名作「華ひらく」の図案の由来です。

ところが、ここでひとつの大きな問題が生じます。猪熊氏から納品された完成原稿には、「mitsukoshi」という店名が一切入っていなかったのです。純粋芸術の立場からすれば、完成された絵画空間に文字を後から挿入することは作品の純度を損なう行為であり、猪熊氏自身も文字を入れることには極めて消極的でした。しかし、百貨店の包装紙である以上、店舗名を明記しないわけにはいきません。

そこで白羽の矢が立ったのが、三越宣伝部でグラフィックデザイナーとして勤務していた31歳のやなせたかし氏でした。上司から「猪熊先生の絵を壊さないように文字を入れてこい」と至上命令を受けたやなせ氏は、原画の持つ自由で軽やかなリズムを壊さないよう、細心の注意を払いながら細いペンの筆記体で小さく「mitsukoshi」と書き込みました。

緊張の面持ちで猪熊氏のアトリエへ確認に赴いたやなせ氏に対し、猪熊氏はそのレイアウトを一目見て「うん、これでいいじゃないか」と即座に快諾したといいます。画家の美意識を損なわず、同時にクライアントの要請を満たすという、やなせ氏の類まれなタイポグラフィのセンスとバランス感覚が、歴史的傑作を完成に導いた瞬間でした。

石川 優花

石川 優花

インテリア&ライフスタイルコーディネーター

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。

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