死滅回遊魚はなぜ命を落とすのか?黒潮と海水温上昇が生む越冬の真相
日本列島の太平洋岸を洗う世界最大級の暖流「黒潮」は、フィリピン東方や台湾沖を起点とし、毎秒数千万立方メートルという途方もない水量と最大流速4〜5ノット(時速約7〜9km)のスピードで北上します。サンゴ礁域で産卵された南方系魚類の浮遊卵や、孵化して間もない仔魚・稚魚たちは、自らの意思とは無関係にこの巨大なベルトコンベアへと巻き込まれます。
これが、房総半島、三浦半島、伊豆半島、紀伊半島、高知・四国沿岸などの磯場に色鮮やかな幼魚が出現する発端です。しかし、これらは自力で故郷の南洋へ泳ぎ戻る回遊力を持たないため、生物学的には母集団から切り離されて遺伝子を残せない「無効分散(むこうぶんさん)」と呼ばれる現象に該当します。
では、死滅回遊魚がなぜ死ぬのかという決定的な理由はどこにあるのでしょうか。魚類は周囲の水温に体温が左右される変温動物です。熱帯・亜熱帯性魚類の生理機能は水温20℃以上で最適化されており、水温が15℃以下に低下すると消化酵素の働きが停止して給餌不能に陥ります。さらに12℃〜13℃を下回ると神経伝達や筋肉の収縮が麻痺し、姿勢を保てなくなって海底に横たわり、最終的には呼吸不全や衰弱によって息絶えます。本州の厳冬期(1月〜3月)における沿岸水温は時に10℃〜12℃前後まで冷え込むため、逃げ場のない浅場に取り残された個体にとって、冬の海は不可逆的な生理的トラップとなるのです。
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