中村勘三郎の妻・波野好江の現在|中村屋を支え続ける名女将の軌跡
ネット上や週刊誌などでは、伝統芸能の「梨園の妻」に対して「理不尽なしきたりに縛られた過酷な生活」「個人の自由が一切ない世界」といった先入観が語られがちです。確かに年間を通じて興行が続く歌舞伎界において、女将の業務量は一般的な企業の重役秘書と人事部長を兼ねたような過密スケジュールになります。
しかし、好江さんが体現してきた女将像は、単なる「耐え忍ぶ妻」とは根本から異なります。自著や特別番組のインタビューで本人が明かした言葉の中には、自立したプロフェッショナルとしての誇りが滲み出ています。
「中村屋という大きな船をみんなで動かしている感覚。夫が船長で、私は船が沈まないように底を点検する係でした。大変なことも多いけれど、舞台の幕が開いてお客様が総立ちになって喜んでくださる姿を見たら、すべての苦労が消えてしまうんです」
贔屓筋への配慮を怠らず礼節を重んじながらも、家庭内では明るく笑いの絶えない空気を作り出す。好江さんが示したのは、伝統に押し潰されるのではなく、「伝統を自らの生きがいへと昇華させる主体的な生き方」でした。
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