イスラームと禅を架橋した知の巨人・井筒俊彦が遺した思考革命
日本で初めてアラビア語原典から『コーラン』を完訳した業績は、井筒の学問的キャリアにおける記念碑的マイルストーンだ。だが、彼の真骨頂は単なる翻訳作業に留まらず、テクストを構造的に読み解く言語哲学・意味論を確立した点にある。言葉が世界をどう切り取り、人間の認知をどう縛り、あるいは解放するのか。セマンティクス(意味論)の手法をイスラーム神学に応用した研究は、国際的な学術界に激震を与えた。
晩年の主著『意識と本質』(岩波書店)は、その思索の集大成である。「本質」とは固定された実体ではなく、人間の意識の働きによって仮構されたものにすぎない。禅の「無」やスーフィズムの「存在一性論」を自在に横断しながら、言葉以前の原初体験へと読者を誘う同書は、日本の思想史における最高峰の一冊として読み継がれている。
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