北野菊次郎の実像|東京タワーを塗った職人の生涯と遺言の真相
北野菊次郎は1899年(明治32年)、正端家に生まれました。のちに北野家の養子となり、妻である小宮さきと結婚して北野姓を名乗ることになります。彼の職業人生は、明治から昭和初期にかけての伝統工芸である「漆塗り職人」からスタートしました。指先が器用で、工芸品のような緻密な手仕事を得意としていた菊次郎の手腕は、同業者からも一目置かれる水準にありました。
しかし、戦後の生活様式の激変と近代化の波によって、漆器の需要は急速に縮小。家族を養うために彼が転身した先が、建築塗装を担うペンキ職人でした。下町の塗装業者として独立した菊次郎は、現場での妥協を許さない気骨ある職人として頭角を現します。
菊次郎のキャリアにおいて最大のハイライトといえるのが、1950年代後半の東京タワー建設現場における塗装作業です。地上300メートルを超える強風の吹き荒れる中、当時は十分な命綱すら整備されていない危険な足場に立ち、頂上部の鉄骨にペンキを塗り上げました。ビートたけし自身も自著や番組取材において、「親父は東京タワーのてっぺんまで登ってペンキを塗った職人だった」と誇らしげに回顧しています。酒癖の悪さで家庭を混乱させながらも、仕事に関しては命を張る職人の矜持を最後まで失わない男でした。
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