『一つの花』結末とお父さんのその後|コスモスに託された主題を徹底考察
教科書で親しまれる名作児童文学『一つの花』は、激しさを増す戦争の影が色濃く差す日本を舞台に展開します。『一つの花』のあらすじを振り返ると、物語は物心ついたばかりの幼い少女「ゆみ子」の日常から始まります。配給制度によって食べるものが極端に不足する中、ゆみ子が最初に覚えた言葉は「ひとつだけちょうだい」でした。
ゆみ子にとって「ひとつだけ」はおねだりの言葉であり、母親にとっては「これで最後」と言い聞かせる切ない言葉でもありました。そんな中、父親のもとに一通の赤紙(召集令状)が届きます。戦争に行けば二度と生きて帰れないかもしれない時代、家族は別れの瞬間を迎えます。出征の日、駅の改札へ向かう道中でもゆみ子は「ひとつだけ」と泣き叫びます。見かねた父親は、駅のプラットホームの隅に咲いていた一輪のコスモスを見つけ、ゆみ子に手渡します。
「ゆみ子。一本のコスモス、一つの花を見つめるんだ。おまえも、この花のように強く生きるんだぞ」と心の中で語りかけながら、父親は汽車に乗り込み、煙の向こうへと去っていきました。そして物語は一気に「十年後」へと時間を飛び越えます。戦争は終わり、平和が戻った世界で、大きくなったゆみ子がコスモスに囲まれた小さな家で歌を歌いながら買い物へ出かける姿で幕を閉じます。
この物語における登場人物の心情変化は、言葉の少なさとは対照的に極めて劇的です。父親は、自分の命が長くないことを悟りながらも、愛娘に飢えや悲惨さの記憶ではなく「美しく尊い命の記憶」を残そうとします。母親は、夫を戦場へ送り出す絶望を胸に押し込めながら、戦後の苦難を一人で背負い、娘を育て上げる強い母性へと変化していきます。そして赤ん坊同然だったゆみ子の年齢は、前半の1〜2歳前後から、ラストシーンでは小学校高学年にあたる11〜12歳前後へと成長を遂げています。